N3437BM-9 (1)
fanzui11
06:水彩

別荘からグラシスの館へ戻った次の日の朝、僕はモーニングコーヒーを吹き出した。
王宮への出勤前、王都新聞を読んでいたら、そこに昨日の事件についての記事があった。


“王宮魔術師、密猟者捕える”


なんかこんな感じのタイトルで、他のものと比べると小さな記事だったが、モノクロ写真も付いてあった。
僕と、その奥にぼんやりベルルも写っている。いったいいつ撮った写真なのか。

しかし写真機は持っていないので、ベルルの写真は貴重と言える。
僕よりベルルがはっきり写っている写真の方が良かったな……。

それにしても、記事の内容コーチ アウトレット
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は淡白なものだった。
別荘に訪れていたグラシス夫妻が密猟者に遭遇。その際僕が密猟者を魔法で捕えたと言う事になっていた。

妖精の事は伏せられている。

「あ、旦那様だわっ!!」

ベルルが僕の読んでいた新聞を覗き込んで、写真をみつけ声を上げた。

「写真だよ。ベルルは初めて見るかい?」

「ええ!」

ベルルは表情をキラキラさせながら、新聞の上の僕を指で撫でる。

「ねえ旦那様、その新聞の写真、私、貰っても良いかしら?」

「……どうするんだい?」

「も、持っておいて、見るの。旦那様がお仕事で居ない時に………」

ベルルは何だかもじもじしながら、そう言った。
改めてそう言われるとどこか恥ずかしいが、嬉しくも思う。

「ああ。こんな小さな写真で良ければ……」

「私、サフラナにハサミを借りてくる!!」

ベルルは嬉しそうに、サフラナの所へ行ってしまった。

そしてふと思った。
自分もベルルの写真があれば良かったなと。

ベルルがハサミを持ってやってきた。
僕から新聞を受け取ると、写真の部分だけ切り取って嬉しそうにそれを眺めている。

「これをスケッチブックに貼りましょう!」

「スケッチブックに? どうして?」

「だって、いつも持ち歩いているものだもの。中庭で植物を観察している時に……」

「……」

ベルルはそう言って、スケッチブックを持って来た。
スケッチブックには観察してきた植物のクロッキーが多くあり、その隣に色々とメモがなされている。
というか、ベルル絵上手いな!!

「……君、絵を描くのが上手いな」

ただの鉛筆でさらさら描かれたものだったが、ベルルにこのような特技があったとは思わなかった。

「そう?」

ベルルには自覚が無いようだった。
スケッチブックの隙間には、きっと彼女が見かけたのであろう、沢山の妖精の絵があった。
彼女が中庭でこのようなものをちまちま描いているのだと思うと、何だか微笑ましい。

「ほら見て、旦那様! 写真を貼ったわ!!」

ベルルはそんなスケッチブックの1ページに、新聞の写真を貼る。
そして嬉しそうに、それを僕に見せた。









研究室で仕事をしながら、僕はふと思いつく。
ベルルの暇つぶしになるなら、彼女にもっと画材を与えて絵を描かせたらどうだろうかと。

王宮には宮廷画家の為の画材店と言うのがあるが、休み時間にそっちに行って、画材を見てみる。

「あれ……リノ、どうしたの……?」

「ああ、フィオか……」

画材店には、幼なじみのフィオナルド・コレーが居て、僕を見て驚いていた。

僕と彼は、幼い頃からの知り合いと言うのと、魔法学校で同じ班だった間柄だ。
フィオナルドは少々変わった男で、魔術一門に生まれ魔法の才能もあったのに、最終的に宮廷画家になった普通で無い経歴を持つ。

「そう言えばリノって結婚したんだね。今朝の新聞で読んだよ」

「あ、ああ……」

「おめでとう。ちょっと安心したよ……」

さて、前の婚約者とのあれこれも知っている彼だ。
彼が人におめでとうなどと言う事は少ないのだが、それほど僕の事を哀れに思っていたと言う事だ。

「その……妻に画材を与えたいのだが、どれが良いのだろうと思ってな。僕は絵の事は全く分からないから……」

「……奥さん、絵を描くの?」

「ああ……植物を良くスケッチしたりしている」

「……ふーん。まあ、初心者なら、色鉛筆や水彩が無難なんじゃ無いの?」

フィオナルドはそう言って、画材店のどこかからか、固形の透明水彩がセットになった、木箱を持って来た。
なかなか高級感のある画材セットだ。
僕は、フィオに勧められるままその水彩ボックスを購入した。

ベルルは喜んでくれるだろうか。







グラシスの館へ帰り、夕食の後、僕はベルルを呼んで寝室へと向かった。
部屋のソファに落ち着き、水彩絵の具のボックスをベルルに手渡す。

ベルルはソファに座ったまま、その箱を大きな瞳で見つめていた。

「これ、私が貰って良いの?」

「ああ……お前の為に……その、王宮で買って来たんだ」

「まあ、旦那様」

ベルルはその箱に施された装飾などをうっとり眺めた後、ゆっくり箱を開ける。

「わああ……っ」

木箱の中は段々になっていて、そこには色とりどりの固形の水彩絵の具が四角の窪みに埋め込まれている。
ふわりと、閉じ込められていた絵の具の匂いと木箱の匂いが漂ってくる。

「素敵素敵っ!! まるで宝石箱みたいよ!! 旦那様、これって絵の具でしょう?」

「あ、ああ……。良く分かったな」

「凄いわ旦那様!! 私、ここ最近、ずっと色をつけるものが欲しいって思っていたのよ!! 旦那様って、私の考えている事が分かるのね」

「………」

ただ、ベルルが喜ぶ事は何だうと考えていただけだ。
お互いの事を分かって来たと言う事だろうか。

「嬉しいわ嬉しいわっ!! 私、これから毎日この絵の具を使って絵を描くわ!!」

ベルルはどうにかして、僕にその喜びを伝えたいようだった。
絵の具のボックスをテーブルの上に置くと、そのまま隣の僕の腰に手を回し、僕をぎゅっと抱きしめた。

「な、なんだいベルル……」

「……旦那様って凄いわ。どうしていつも、私の嬉しい事ばかりしてくれるのかしら。魔法使いだから?」

「いや……そう言う訳じゃ無いだろうが」

「私も、旦那様の嬉しい事、いっぱいしてあげたいのにな。でも私、何も出来ないのよ……」

ベルルは僕を抱きしめ、顔を胸に埋めたまま、そう言った。
どこか切な気な声で、思わず抱きしめ返す。

「何を言っているんだベルル。お前は何も出来ないと言うが、僕から見たら、随分色々と出来る様になったと感じる。植物の名前も随分覚えた様だし、料理だって、毎日サフラナに教わっているんだろう? 絵だって描けるじゃないか」

僕は躊躇いがちに顔を上げるベルルを見つめ、彼女の目にかかる前髪を払った。

「僕は……君が喜んでくれれば、それで良いんだ」

「……旦那様」

僕は、きっとベルルの笑顔が見たいのだ。

僕自身ベルルの存在に癒され、助けられている。
彼女の居る家に帰りたいと思える事が、どれほど僕にとっての救いとなっているか。

「……なら、僕の望みを聞いてくれるか? 今度……写真館へ行かないか?」

そう言うと、彼女は少しぽかんとした。

「写真館……?」

「そうだ。僕らは夫婦になったのに、家族写真をまだ撮っていないだろう? ……僕は、君の写真が欲しい」

出来る事なら、仕事場のデスクの上に飾っていたい。

「家族……写真……?」

ベルルはいきなり、顔をポッと赤らめた。

「わ、私の写真……?」

「ああ……。何だ、恥ずかしいのか?」

「う、うん」

彼女は僕を離し、自分の頬を手で覆う。
何故か真っ赤になったベルルは、いつもよりいっそう可愛らしく見える。

「私……大丈夫かしら。見映えの良いものでも無いと思うのだけど……」

「君は……いつも思うが自覚が無いな」

ベルルはいまだに、自分はあまり美しく無いと思っている。
そりゃあ、好みは人それぞれだが、彼女より美しい女性がいるなら連れて来てくれとも思う。

「だっ……大丈夫だ。……着飾って、笑顔の写真を撮ろう」

ベルルはだんだんといつもの輝かしい笑顔になっていった。
その笑顔を、僕はいつも見る事ができればと思っている。


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Sense171

 あれから数日。元々決まっていたお茶会に間に合う様に資料やアイテムを揃えた俺だが、今回はそれだけが仕事では無い。

「うーん。椅子の数は十分。それに、お茶とお菓子も準備完了」

 ウッドデッキには、テーブルと椅子、トレーには、陶器のポットとカップ。そして、軽く摘まめる食べ物を揃えた。
 桃藤花の樹を見ながら話せるような位置に調整している。
 持ち回りでそれぞれのホームである店に招いており、今回は、アトリエールで行い、俺が持て成ティンバー 靴
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すホスト側だ。
 恙なく準備を行うことが出来たのは、学園祭の時の経験や今までのお茶会という手本があったためだ。
 とは、行ってもそこまで大仰な物でもない。

「こんにちはー。ユンっち、いる~」
「ああ、いらっしゃい。こっちにいるから」

 俺は、店のカウンター横の出入り口から来客の二人を招き、場所に案内する。
 感嘆の声を上げる木工師のリーリーと静かに感心している裁縫師のクロード。
 そして、その肩に乗るのはそれぞれのパートナーの幼獣――不死鳥のネシアスと幸運猫のクツシタ。

「いらっしゃい。マギさんは? 一緒じゃないの?」
「いや、マギは、少し準備があるから遅れるようだ」

 そう答えたクロードの肩から黒に足先が白の子猫が飛び降り、桃藤花の樹の下で寝そべっているリゥイとザクロに混ざる形でじゃれ合い始めた。その後を追うように、美しい朱の不死鳥もリゥイの背中に移る。
 良い絵だよな。こういう光景って。

「それにしても、ユンっち気合入ってるね。お菓子とか色々用意して」
「まぁ、これが俺の成果みたいなものかな? マギさんはもう知ってるし、クロードはクエスト報酬の本を解読しているなら知ってると思うけど……」
「ああ、流し読みで見たが、あれか」

 何処か納得したような言い方にリーリー一人だけが、知らない状態に不満で頬を膨らませる。

「簡単に言うと状態異常の耐性を与える食べ物って所だ」
「それで、お味は?」
「勿論。味は保証する」

 冗談めかして聞いてくるリーリーに杏のドライフルーツを渡す。あれから三日天日干しした杏は、柔らかく、砂糖で脱水した直後とはまた別の味わいを持っている。

「頂きます。シアっちも一緒に食べよう」

 受け取って、木陰の下、リゥイの背中で羽を休めていたネシアスがリーリーの肩に戻って来る。二人で小さく割いたドライフルーツを分けている。

「さぁ、クロードも食べて待ってればいい」
「では、お言葉に甘えて」

 席に着き、同じ様にドライフルーツとは別。シユの実で作った梅干しに手を伸ばし、躊躇いなく口に放り込み、眉間に険しい皺が刻まれる。それが、おかしくて小さく噴き出す。

「ほれ、紅茶だけど、口直しだ」
「……頂こう。流し読みだったから忘れていた。梅干しか」

 紅茶を啜りながら、赤紫蘇を使わないという事は、土用干しか。などと呟いている。結構、博識なんだよな、クロードって。変人だけど。
 しばらく、お茶を飲みながら待っていると、マギさんが遅れてやってきた。

「ごめん。待った?」
「いえいえ、まったりお茶してた所ですよ」
「普通は、皆今来た所って言うんじゃないの? ユンっち?」
「嘘が下手なのか、それとも素での発言か。そっちだろうな」

 リーリー、クロード。煩いぞ。あと、普通に素の発言だ。悪かったな。
 まぁ、確かに今の言い方だと人によっては気を悪くしそうだ。と思いマギさんをちらりを見たが苦笑一つで気にしてないと手振りで教えてくれた。
 そのまま、全員のカップに新しいお茶を注ぎ、生産職のお茶会が始まる。

「まずは、お招き頂き感謝する。と言おうか。ついでに、帰りにこの梅干しと梅酢を貰えないか?」
「開口一番、お土産の要求かよ。まぁ瓶一つ分はあるから味の感想を貰えれば、分けるけど……」
「うむ。梅酢を酒や炭酸で割って梅酒や梅酢サワーなんて飲み方を試したいのでな」
「結局、そこか!」

 俺のツッコミにリーリーとマギさんは、くすくすと笑いながらも同じ様にお土産について語る。

「僕は、このジャムが欲しいな。こうしてお茶と混ぜて飲むと美味しいよ」
「へぇ~、そう言った使い方もあるのか」

 ティースプーンより少し多い量のジャムを紅茶の中に溶かし込み飲むリーリー。俺もそれを真似て飲む。紅茶の渋味が甘味に隠れ、フルーティーになった。これはこれで美味しい。

「うん。他にも、ジャムは花を使った物もあるし、色々と試してみたら桃藤花の花は、毎日取れるでしょ?」
「取れるって言っても一日一房。花びらにして三十枚って所だ」
「なぁ、俺の時と反応が違くないか?」

 クロードが口を挟むが無視する。それにしても、桃藤花の花で作ったジャムか。どんな味だろ。桃のジャムっぽいのかな?
 そして、マギさんからは、梅干しとドライフルーツを両方。これは約束していたので問題ない。
 その後、俺の発表であるこれらの食べ物について簡単な考察を話す。

「――まぁ、シユの実とトゥーの実で作った保存食だな。空腹度の回復と状態異常に耐性を与える効果がある。今の所毒と気絶の二種類だけだが」
「便利になったね。今までの事前の対処法って装備に耐性を付与するか、耐性センスを装備するか、だもん」
「それに、これを見る限り、ジャムは効果が低いがちゃんと耐性を与えてくれる。このジャムを使って他のモンスターの素材で料理を作れば、ステータス上昇と耐性の二つが着けられないか?」
「どうなんだろうな? このアイテムのどの部分に耐性があるのかが問題だ」

 マギさんとクロードの言葉にサンプルで残しておいた二つの果実を手に取る。
 アイテムは、それ一つでアイテムだが、部位ごとに微妙な違いがある。
 例えば、モンスターの肉などの食材アイテムの中には、マイナス効果を持つ部位がある。例えば、ミルバードの肉は、そのままでは、毒のマイナス効果を持つが、包丁などで物理的に毒の元となる部位を切除することで無毒化が可能だ。
 他の無毒化は、アイテムやスキルによる無毒化であるが、こちらよりも物理的な加工の方がより確実だ。
 そして、そのマイナス部位の逆、プラスの効果を持つ部位はどこなのか。だ。

 果実の場合、実、種、果汁など幾つかに分けられる。
 今回の実の場合、天日干ししたことで効果が高まるのだから、実の部分に効果を持ってる事だろう。逆に、砂糖や塩で脱水して残しておいたシロップや梅酢には、効果は無い。
 また、種をのぞいた実と水分で作ったジャムは、それだけ効果が濃縮されていないという事だろう。

「――まぁ、それは追々やっていくテーマとして、今はレシピの解析と作成だな」
「こっちは、フィオルにステータス上昇と耐性の二つの効果を持つ料理でも提案してみるか。最近は、素材の発見例が少なくて満足いく物がない」

 クロードは、喫茶店の厨房担当・パティシエのフィオルさんに頼むようだ。

「マギっちも僕もその辺は門外漢だからね。まぁ、次は、僕かな? 僕は、クエスト報酬の桃藤花の苗木から作ったアイテムかな? あれを素材に作った武器は、最初から追加効果で【自動回復(小)】と【回復量上昇(小)】があるからね」
「【自動修復】と自動回復ってどう違うんだ?」
「自動修復は、防具や武器の耐久度を装備者のMPを消費して回復させる効果。自動回復は、装備者に一定時間ごとにHPを回復させる効果。回復量上昇は、装備者が回復系のスキルやアイテムを使用すると、回復量が上昇する効果。これは、HPとMPの両方に適応されるの」
「最初から二つの追加効果ね。でも、その分、他のを付ける枠組みが無いんじゃないの?

 マギさんの言葉に俺もそう思う。その武器に着けられる追加効果には上限があり、それを超えると自壊する。

「そうなんだよ。生産職が付けるボーナスと素材自体の追加効果が二つ。計三つで打ち止め。武器のグレードを上げるための素材は、ない。既存の木工素材のどの素材系統とは違うから中々難しいんだよね」
「じゃあ、リーリーも他にテーマは無しか」
「まぁ、武器自体の性能は、高いから。追加効果が無くても十分強い。ただ次のテーマには繋がり難いかな」

 そう言って桃藤花の苗木に関する話は終わる。
 最後に、マギさんだが、全員が期待の籠った目を向ける。

「私かぁ……。と言っても別の属性の石を見つけたくらいかな? ユンくんの持つ蒼鉄鋼(ブルライト)製の武器は、水属性だけど、今度は、火と土属性の」
「あれですか……。加工って結構大変ですよね」
「ううん、一回ブルライトで慣れているから多分大丈夫……と言うよりもう試作品は出来てる。同じように属性の攻撃ボーナスや耐性の追加効果が付いているの」

 俺が出来ない事を簡単にやってのけるマギさんを改めて凄く感じる。また、俺ももう少し頑張ってみようと思う。
 だが、マギさんの話はこれで終わらなかった。

「後は、幾つかの炉を使う素材が見つかったの。砂結晶(すなけっしょう)ってアイテム。まぁ、今は工夫の途中だけど、加熱すると溶けてガラスみたいになるから、ベースの素材だと思うんだけどね」
「ほう、結晶化か。上手く着色が出来れば、服の装飾に使えるな」
「良いね。じゃあ、久しぶりに私とクロードで共同制作しない?」

 マギさんがクロードにそう提案するのを見て、俺もこれに便乗する。

「じゃあ、リーリーは俺と何か作るか? 今は特に次のテーマとか決めてないだろ?」
「良いけど、何を作るの?」
「――新型の弓ってのはどうだ?」

 そもそも、これに便乗してなくても後でリーリーに提案するつもりだ。そして、リーリーは、俺を見て、水中で使える弓って無茶な要求の前にどんな物を要求するの? と尋ねてきた。まずは、俺が欲しているという誤解を解かなければ。

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第二部 1.出口のない森−8

 モーリスの農園で働くドゥーヴルの息子が、群れを離れた家畜を追う途中、川原をふらふらとさまよう娘を見つけたのは、およそ二年前のことだ。
「こやつが一人でか?」
 フィリップが語り始めてすぐ、王が口をはさんだ。そう聞いております、とフィリップが答えると、王は疑わしそうに、小さく眉をひそめた。だが、王はほかに質問を重ねはしなかった。
「続けろ」
「私の部下モーリスが、記憶を失っている娘を助けたと私に連絡してきました。当時の彼女は粗末な服を身に着けていたそうですが、唯一持っていた水晶細工がそれは素晴らしい物で、彼は、彼女がもしかしたら貴族の令嬢ではないかと考えたようです。それから早速手元に届けられた装飾品を確認したところ、西方の貴族間で流行している意匠が彫り込まれているのが分かりました。それが盗品とも疑いましたが……私はなんとなく、気になったのです。ともかく、試しに一度娘に会ってみることにしました」
 遊戯室は水を打ったように静かだった。いったんは王に反発する態度をとったジェニーも、彼の隣でフィリップの話に耳を傾けている。
「ところが、ちょうどその頃は、父の具合が急激に悪化したときで……。父の代わりを務めねばならなくなった私は多忙となり、モーリスとの約束を一度、反故にしました。その後まもなく父が亡くなったこともあって、私は、モーリスの依頼などすっかり忘れてしまったのです。ですから、実際に彼女に会えたのは、私の周辺が落ち着きを取り戻した頃、彼の依頼があってから数ヶ月も経った時期です。その間、彼女はモーリスのもとで暮らしておりました。
私は当然、ひとりの娘の身元を特定できるなど予想もしていなかった。西方の貴族とて若い娘は何十名もおりま時計 ブランド
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すし、私は社交界に積極的に出る方ではありません。会ったことのない者の方が多いくらいですから」
 ここまではジェラールも知っている話だ。
 フィリップが彼を一瞥すると、彼が、緊張とも興奮ともいえるような強張った顔でフィリップを見た。フィリップにも緊張が高まり、彼は胸にためた息を一気に吐いた。
「しかし実際に会ってみると……驚くべきことに、彼女は以前会ったことのある娘でした。一度会っただけでしたが彼女の印象は強烈で、その後も私がずっと再会を願い、再会がかなわずにいた者でした。まさか――ええ、まさか、こんなところで彼女に再会するとは、万に一つも思わなかった。そのときの私の衝撃がおわかりいただけましょうか? それなのに、彼女は……私を全く覚えていなかったのです」
 フィリップがジェニーを見ると、王の瞳もジェニーの方に動いた。
「それで?」
「本当に、彼女の記憶はきれいに欠落していました。彼女は王の名や王城はおろか、自分の名前さえ覚えていませんでした。私は、彼女がいるべき場所は王城だと思っていたので……、王にご報告すべきなのかどうか、彼女の扱いについては、実に迷いました。正直に申し上げれば、私は、処遇に困る彼女に公地内にいてもらいたくはなかった」
 ジェニーがその頃のことを覚えているかどうかは定かではない。彼女は眉を寄せ、何かを考えているようだった。彼女が椅子の肘掛に置いた手を、王の手が上から押さえつけるようにして掴んでいた。

 フィリップが彼女と顔を会わせた頃までには、彼女はマリーという名で呼ばれ、モーリスをはじめ皆によく慕われていた。前妻との悲惨な結婚生活から精神的に回復しきれていなかったモーリスや彼の農園の人々が、目に見えて明るく変わっていた。それが、突然に彼らの土地に出現した彼女の影響でなくて、何だったろう? 
 彼女は記憶を失い、見知らぬ土地にたった一人きりだった。彼女が農園で暮らすことは、彼女と農園の人々の双方にとって、利をもたらしている。彼女も幸せそうだった。さらに言えば、フィリップは彼女に厚い恩義を感じていた。彼女の置かれた立場に何の不都合もないのなら、彼女の当面の生活保障をすることくらい、彼には何の問題もなかった。
「そして、私はふと思いついたのです。王城にいるべき人間が独りでここにいることがあるのかと。行方知れずとなった彼女の捜索が行われるという通達も、噂も、私の耳には入ってきませんでした。――総合的に考えて、彼女は、何らかの理由で王城を去ることとなった身分なのだろう、と私は思ったのです」
 それは、王が彼女に飽きて、後宮を追放したことを意味している。
 フィリップはその考えに何の疑いを持たなかったし、王が結婚を機に後宮に住まう女たちを退去させた時点で、それは立証されたとみなした。
 また、フィリップが彼女の扱いに困っていた期間に、ジェラールが、たまたま彼女と会う機会に恵まれた。彼女の正体を知らないジェラールが、内気な彼にはめずらしく彼女に声を掛けた場面を目撃したとき、フィリップは、彼のためにも、彼女の面倒をみようと心に決めたのだ。
 誰に、何の迷惑がかかろうか? 彼女は今後の長い人生を生き抜いていかねばならない。ジェラールが女性に歩み寄る態度をとったのは良い兆しで、いずれ、もし彼女が彼のもとで日々を過ごす立場になったとしたら、それはそれで、二人にとって幸せなことではないだろうか。ジェニーは安住の地を得て、ジェラールは愛する人を得るのだ。
「彼女はとある貴族の末裔だということにして、モーリスに彼女の当面の世話を命じました。彼は非常に誠実で、信頼のおける人物です。それに、彼の館は本城から離れすぎず――適度に距離があって、私も安心できました。私は、余分な騒ぎや面倒を起こさないようにと、ほんの一握りの者にしか彼女の話はしませんでした。然るべき時期が来るまで、私は何の問題も起こさず、万全の態勢でその日を迎えたかったのです」
 王は、瞬きもせず、フィリップの説明を聞いていた。ジェニーを保護したフィリップの意図を知っても、不機嫌になる様子はなかった。ジェニーが表情をくもらせ、ただならぬ気配を察したジェラールが青ざめるのとは、対照的だ。 

 ヴィヴィエンヌが急速に元気を失くしていた。フィリップは彼女の軽率さを責めたくもあったが、気分屋でも基本的には沈んだ顔を見せない彼女が、不安そうに表情を翳らすのを見るのは、いたたまれなかった。
「家督を継いで以来、私は多忙を極めており、妻の抱える孤独を知りながら、見て見ぬふりをしていました。妻はずっと不安定でした。それゆえ、私のこの計画に妻を巻き込むことは不安で、私は口をつぐむ選択をとったのです。妻の耳に入らぬように気を配っておりましたが……それがまた、いらぬ不信を生んだのかもしれません。ジェラールの為とはいえ、私が面倒をみる彼女に対し、歪んだ感情を持つようになったのでしょう」
 王の態度を見ている限り、フィリップには、王は既に事件の概要を知っているように思えた。
 包み隠さず、王に何もかも告げた方がいい。下手に釈明しない方が身のためだ。
「私は……妻の暴走を止められなかった」
 一方的なヴィヴィエンヌの思い込みで引き起こされた、身勝手で短絡的な事件だ。嫉妬に狂ったヴィヴィエンヌが近衛を動かし、夫の浮気相手とみなしたマリーをモーリス宅で襲撃した。数人の使用人が死んだ。マリーは近衛に連行されたが、隙を見て彼らから逃亡した。そして彼女を追う近衛兵たちは、不運にも、たまたま森にいた王と出くわしてしまったのだ。
 妻が欲求に正直で独占欲が強いことは分かっていたが、まさか、彼女がそこまでの行動を起こそうとは、フィリップは想像もしなかった。夫を責めるのではなく、怒りの矛先が相手に向き、相手を殺そうとまでする。フィリップがのん気で知らないだけかもしれないが、そんな嫉妬の表現をほかの女に見たことがない。何より、男女の情事など貴族社会には溢れかえっていて、ほとんどの夫婦はお互いがお互いに目をつぶっているのではないだろうか。フィリップが――ヴィヴィエンヌは夫が気づくはずがないと見くびっているようだが――彼女の度重なる不貞を容認しているのと同じように。 
「私の至らなさゆえ、王の御身にまで危害を及ぼしかねない事態になりましたことを、心からお詫びいたします。厳罰は覚悟のうえ……王、どうぞ、ご処分を」
 フィリップは王に向けて頭を下げはしたが、それはジェニーに対する謝罪でもあった。今回の件で、彼女には何の落ち度もない。完全な、とばっちりだ。頭を下げる前にジェニーを盗み見たところ、彼女は青ざめ、言葉を失っているように見えた。
 王は何も返さなかった。だが、フィリップは頭を上げようとは思わなかった。彼の怒り心頭の形相も、不敵な笑みも、冷たい嘲笑も、今のフィリップには目にする余裕がない。
(願わくは、ヴィヴィエンヌも王に頭を垂れていてくれたら……)
 ヴィヴィエンヌが動き出す気配はなかった。彼女は誰かに謝罪するという発想に乏しい。ただ、彼女に好意的に見るなら、彼女は単に自分の犯した罪に茫然自失となっていて、そんな気までまわらないだけなのだろう。

 何の反応も示さない王を不安に思い、誰もが息を殺して事の行方を見守っているはずだ。フィリップは、時間ばかりが無駄に過ぎるように思え、下げた頭をいつまでも上げられずにいた。
 やがて、王が膝の上で組んでいた足を降ろし、言った。「おまえは何か……大きな思い違いをしておるな」
「はい?」フィリップは思わず顔を上げた。
「俺は怒ってはおらぬぞ。皆の誤解が解けてよかったではないか」
「……ええ、そうではありますが……?」
 合点のいかないフィリップは、王の妙に晴れ晴れとした表情にさらに矛盾を覚えた。
「俺と出くわした近衛兵の一件は、この娘の世話を長期に渡ってしたことで相殺としてやろう。俺はある理由から……この娘を密かに捜しておったのだ。今日までの間、ほんの一つの手がかりも掴めずにおったのが、いきなり、こうして生き会えたのだ。この公地内で発見されておらねば、こやつは生きてこの場におらなかっただろう。……俺は逆に、おまえに感謝すべきであろうよ」
 フィリップよりも大きな当惑を顔に映し出し、ジェニーが王を見上げた。
「ゴーティス王――」
「俺は、“余興”と最初に言うたはずだ」
 ジェニーの硬い声をさえぎり、王が彼女の手を肘掛に押さえつけた。
「今日より、この娘の身は俺が引き受ける」



 小城での最後の夜、ついに朝まで熟睡できなかったカサンドラは、気だるい体を無理に起こし、寝台から降り立った。広い寝室はがらんとしていて、彼女を包む空気までが寒々としている。
(私は妃なのに、どうして……なぜ、一緒にいてくださらないの?)
 カサンドラの予想どおり、夫である王は昨夜も部屋に戻ってこなかった。二夜連続だ。
 彼と共に夜を過ごしていたらしいラニス公たちは、深夜前には各部屋へ戻っていったのをカサンドラは知っている。使用人たちが彼らを連れて通路を歩く気配で、眠りの浅かった彼女は何回か目を覚ましたのだ。彼女は物音を耳にするたび、部屋の扉が開いて王が姿を現すだろうと期待して、寝台から飛び起きては扉を見つめた。それは夜中に何度か繰り返された。しかし今の今まで、結局、扉が開けられることは一度もなかった。
 召使を呼ぼうと呼び鈴に手を伸ばしかけ、カサンドラは深いため息に襲われた。昨日の夕方に王が娘を連れ立って帰宅した件は、侍女から聞いた。
 新婚の妻と来た旅先で、妻の居る城に女を連れ込むなど、そんな夫がいるだろうか?
 王の怒りを恐れて誰もが口を閉ざすため、連行された娘がどんな風体なのかはわからない。でも王が連れてくるなら、若い娘に決まっている。 
 おとといの夜、小城で唯一の若い給仕女が、晩餐後から朝まで行方をくらました。同じ夜、王は晩餐後に移動した遊戯室へ、彼女に酒を運ばせている。王もカサンドラの待つ寝室には帰ってこなかった。カサンドラの侍女が、今日の王の外出を待って、給仕女を城の外へと追い出した。
 王が娘を連れてきたのは、それを見越した行動だろう。あの王は、どこまで女好きなのだ。こんな田舎のどこをどう探せば、若い娘など見つけてこられるのか。
(そこまでして……王は妻である私と一緒にいたくないということ? 私は……王には若すぎるの?)
 カサンドラの息に嗚咽が混じり、彼女は震える足を何とか交互に引きずって、一人で寝るには広すぎる寝台に戻った。寝不足のために体が冷えているが、心の方がもっと寒がっている。
 カサンドラを心配した衛兵ジルが、娘がいるという北の塔に様子を見に行ってくれたが、ついに会えずじまいだったそうだ。王によると、その娘はラニス公たちのために連れてきたとのこと。でも、“案ずることはない”という王の言葉を、どうしてそのとおりに信じられよう?
 なぜ、ラニス公たちとの語らいの場に、妃の自分を呼んでくれなかったのだろう? 皆の前でその娘を見れば、カサンドラの胸がこんなにも不安になることはなかっただろうに。
 
 結婚後半年にして早くも、カサンドラには、夫ゴーティス王に対する不信とあきらめの気持ちが芽生えてきていた。カサンドラの故郷からついてきた侍女二人も、王の浮気性には腹を立ててはいるが、男はそんなものだ、とどこか納得しているようで、王やヴィレールの側近たちに文句を言う気まではないようだ。カサンドラにしても、本国の兄に彼の不貞を報告するつもりはない。知らせたところで、正妃としての座があるのだからそれでいいだろう、と一笑に付されるに決まっている。妻のつまらぬ権利を持ち出して、二国間の関係を危うくさせるな、とでも諭されるかもしれない。兄は頼りにならないし、カサンドラ本人も、政略結婚の実情をあちこちで耳にするにつけ、結婚とはこういうものなのだ、と自分自身をなだめすかす毎日だ。
 ただ、カサンドラはこの半年間の王の態度を振り返ってみて、疑問に感じることがある。
 侍女にも告げていないことだが、王と彼女との接触は嘘のように少ない。王は、たとえ寝所を共にしたとしても、彼女に触れずに休んでしまうことの方が多いのだ。正妃には世継ぎを産んでもらいたいはずなのに、王は、まるでそのことに興味がないようにみえる。
 カサンドラには納得がいかない。ほかの女と数多く接していたとしても、仮にも王であるなら、世継ぎ問題には力を入れるはずではないだろうか。
(……もしかして、そんなに――そんなにも、私のことが嫌い……?)
 カサンドラは溢れてきた涙を拭った。
 女の存在のことは、まだ我慢できた。王が別の女といるのを見たり誰かから聞いたりすれば、カサンドラもその都度傷ついたが、回数をこなせば、そのうちに慣れてしまえるように思えなくもない。結婚とはそんなものだと、割り切ってしまえる日がくるかもしれない。
(でも、王を思うこの気持ちがどこかに消えてくれるかどうか……)
 カサンドラは、初めて王に対面した時の衝撃と胸の高鳴りを思い出していた。カサンドラが初めて間近で見た王は、神々しく、たくましく、あまりに美しかった。人々の噂で聞いていた恐ろしさを、カサンドラは一瞬にして忘れてしまった。冷血だと聞かされていたが、彼の笑顔は輝くほどに明るく、触れた指先はとても温かかった。彼の手に握られたカサンドラの手は感覚をなくし、彼の手と一体化しているような錯覚さえ覚えた。その夜、彼が隣に寝ていた寝台は、とてもせまく感じられた。
 王が振り向いてくれることより、自分の感情が消える日を待ちわびながら、どれだけ孤独な夜を送ればいいのだろう? 王が自分を見てくれることを夢見て、今までの毎日はむなしく過ぎている。食事のとき以外、顔を見ない日もある。どこかですれ違っても、彼がカサンドラに優しく笑いかけてくることはない。王が何かの用事で女官長と話をしていたのを見かけ、彼女の代わりにその場に立ちたいと、カサンドラはどんなに焦がれたことか。 
 カサンドラは、ゴーティスに会ったその日から、彼に恋してしまっていた。

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その場にいた源次郎が暇そうに見えたからかもしれない。

「お、おいっ! 兄ちゃん、仕事だ!」
確か、そう切り出されたように記憶している。
で、タクシーを拾ってきて、美由紀をホテルに連れて行くように言われたのだった。

源次郎は、「おい、仕事だ」と言われたから、当然に「雇ってくれるものだ」と思った。
だから、支配人の言葉には逆らえななかった。
まずは、食べるものと寝るところが欲しかったからだ。
その時点では、そのいずれもがまだ確保出来ていなかった。

それが、5月の末日である。


そうした源次郎の原点を、当の美由紀ばかりではなく、支配人や他の踊り子、そして裏方さんを含めた劇場のスタッフの皆が知っていた。
だから、こんな如何にもど素人的なことが通用しているのだ。
誰も文句を言ってこない。
そのど素人さを承知で美由紀がマネージャーに据えたからだろう。

だが、美由紀のホームグランドである東京に戻れば、きっと、こんなやり方は通用しないだろう。
源次郎には、そうした不安があった。

美由紀は、「東京にはそれなりのスタッフがいる」と言っていた。
それが当然だろうと思うし、逆に、そうでなければあの東京でトップスターの地位を確保することなんて出来ないだろうと思う。
もちろん、そうしralph lauren rugby
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た人は、それなりの特技や力量を持っているに違いない。
だからこそ、佐崎美由紀に認められて周囲で働くことになった筈である。
それに引替え、源次郎はと言えば、何の取り柄もないタダの素人である。
たまたま、この事務所で最初に出会ったアルバイトだからというだけで、こうして美由紀の身の回りの世話をしているだけだ。

(こ

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「んんん???。」
美由紀が源次郎のキスに応じてくる。
そう、まるで「待っていました」と言わんばかりにだ。
顎が、顔が、そして頭が、引力に逆らうように源次郎に向けてせり上がってくる。

源次郎は、下の隙間から差し込んでいた手を軸にして、美由紀が纏っていた薄布をたくし上げる。
そして、ようやっとの思いで、美由紀の乳房をその視線に晒す。

綺麗だった。美しいと思った。
まるで、大理石で出来たミロのビーナスを髣髴とさせる。


美由紀の胸は、その身体全体が小柄だということもあるのだろう、どちらかと言えば小振りである。
今風に言えば、「微乳」の部類に入る。
そして、明らかに「美乳」でもある。

もちろん、昭和4プーマ キッズ
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0年代には、そうした言い方はされてはいなかった。
美由紀のようにやや小振りの乳房がごく一般的だったし、大きな胸、つまりは「巨乳」が今ほどにその価値が認められていなかったこともあるのだろう。


それでもだ。
源次郎は、昨日までの美由紀の乳房とはまったく違うようにも感じていた。
もちろん、誰か第三者に入れ替わっている筈もなければ、現代のように至極簡単に整形手術が行われる時代でもなかったから、そんなことはありえないのだが???。

それを確かめるつもりでもなかったが、源次郎は今度は美由紀の右乳房に手を持って行こうとする。
そのために、一旦は唇を離そうとした。

「い、嫌???。」
美由紀がキスを止められるのをそう言って拒む。
そして、再び、源次郎の唇を追ってくる。
それも、下からである。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その994)

源次郎は身体を戻した。
そう、左

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第二十話 人怪その二十五

「抜かったか」
「貴様は確かに厄介な相手だった」
 氷から元の身体に戻っていく魔物に告げた言葉だった。
「だが。決して倒せない相手なぞいない」
「決してか」
「そう。決してだ」
 彼は言うのだった。
「そのような存在はいない。絶対にな」
「言うだけはあるな」
 魔物は青白い炎に全身を包まれようとしながら彼に言葉を返した。
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「それだけのことはな」
「少なくとも俺は今回も勝利を収めた」
 その炎に包まれる魔物を見据えての言葉だ。
「貴様に対してもな」
「それは認める」
 魔物もまた言うのであった。
「私に勝ったことをな」
「安心して死ね」
 魔物にかける最後の言葉だった。
「そのまま苦しまずな」
「ではこのまま旅立たせてもらおう」
 まだらミイラもまた青白い炎に全身を覆われ。最後の言葉を出してきた。
「さらばだ」
「ああ」
 髑髏天使が応えるとその瞬間に青白い炎に包まれ消えた。髑髏天使は今回もまた勝利を収め生き残ることができたのであった。
 生き残った彼のところに来たのはまずは死神だった。彼はこう声をかけてきた。
「どうやら生きているようだな」
「見ての通りだ」
 その死神の言葉にこう返す髑髏天使チャンluuジュエリーだった。
「今度も生き残ることができた」
「そうだな。貴様はまた生き残った」
「次はわからないが俺は今は生き残った」
 また言う髑髏天使だった。
「この闘いもな」
「私もだ」
 そして死神は今度はそれは自分も同じだというのだった。
「魔物の魂を一つ冥府に送り届けることができた」
「また一つか」
「一つ。一つずつ送り届けていく」
 死神はその外観はそのままだった。鎌も手にしたままである。
 だが髑髏天使は闘いが終わると次第に牧村の姿に戻ろうとした。しかしその戻ろうとしたところですぐに髑髏天使の姿を維持することにしたのである。
 それは何故か。彼は今正面を見据えていた。そしてそこにいる男もだ。
「安心しろ」
 紳士は二人に対して言ってきた。
「私は戦わない」
「戦わないというのだな」
「残念だが今の髑髏天使では私の相手にならない」
 そしてこう言うのであった。
「だからだ。安心しろ」
「そうか。では安心させてもらう」
 髑髏天使の方もそれを受けて頷くのだった。そうして頷いてからその姿を牧村のものに戻し紳士の顔を見やるのだった。構えも取ってはいない。
「魔物のその修正は忘れていた」
「魔物にも規律はある」
 紳士は言う。
「我々魔神が決めていることだがな」
「それが実力が釣り合う相手としか戦わない」
 具体的にはこのことだった。
「そういうことだな」
「そういうことだ。だからこそ今私は君とは闘わないのだ」
「私ともか」
 死神はここで話に入って来た。
「神である私ともか」
「神と神が戦うのもだ」
 何故かそのことに妙な嫌悪感を感じさせる言葉で返す紳士だった。
「好きではない」
「だから私とは闘わないのか」
「少なくとも今はそうだ」
 こう死神に対して答えるのだった。
「今はな」
「闘う気がないのならいい」
 死神も積極的に自分から動くことはしなかった。

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第一話 刻限その三

「おお、牧村君ではないか」
「暫く振りです」
 にこりともせずその小柄な老人に返事を返した。
「相変わらずのようですね」
「ははは、何も変わらんさ」
 老人はその髭だらけの顔を大きく崩して笑って彼の言葉に応えた。机の上の本はそのまま広げられている。古い紙であちこちが汚れたり破れている。書いてある言葉はそのまま手書きでありしかもどう見ても日本語ではない為彼、牧村にはわからないものであった。
「わしは今こうして本を読んでいるしな」
「ウィーンから取り寄せた本ですね」
「その通りじゃよ」
 彼は答えた。
「先日荷物があったじゃろう。大和田源太郎名義でな」
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「ああ、この建物への届け物で」
「それじゃよ。わざわざ取り寄せたのじゃ」
「そうだったのですか」
「手に入れるのに苦労した」
 この老人大和田教授は感慨を込めた言葉で述べたのだった。
「何しろハプスブルク家の秘蔵品だったものじゃからのう」
「ハプスブルク家の!?」
「ほれ、あのルドルフ二世」
 ここで人名が出て来た。
「あの皇帝が持っていた本でな」
「ルドルフ二世というと」
「あの世紀の奇人じゃよ」
 教授はその破顔した笑みで彼に述べた。
「世俗を避け様々な珍品を取り寄せてな」
「話には聞いたことがあります」
 ここでようやく部屋の扉を閉めた。立ったまま教授と向かい合って話をすることになった。
「それにより彼の宮殿は秘蔵品の宝庫となったそうですね」
「如何にも。この本もまたそのうちの一つじゃ」
「そうでしたか」
「これがかなり面白くてのう」
「面白いですか」
「そうじゃ。読んでみるか?」
「いえ」
 牧村はそれは断ったのだった。やんわりとだがはっきりとした声だった。
「それは遠慮させて頂きます」
「何じゃ、残念じゃな」
「ドイツ語は読めませんので」
「これはラテン語じゃよ」
 教授は笑って牧村に言葉を返した。
「まあかなり古いがな」エルメス 財布
「ラテン語ですか」
「昔の欧州の本は大抵そうじゃ」
 笑いながらの言葉が続く。
「マルティン=ルターまで聖書もドイツ語では書かれなかった。それはこれ以前の本じゃな」
「ルター以前ですか」
「おそらくは十五世紀位かのう」
 その皺が多いだろうが髪と髭により見えなくなっている首を捻ってから述べた。
「その頃の本じゃ」
「だから手書きですか」
「そうじゃ。まあこの日本で解読できる人間はそうはおらんな」
 教授はさらに首を捻りつつまた述べた。開かれているページには虫食いすらある。紙にしろ今俗に使われている紙とは全く違うものであるのがわかる。
「わし位じゃな」
「そうなのですか」
「しかし。本当に面白いことがわかる」
 本を見つつの言葉だった。
「何かとのう。そういうことか」
「何が書いてあるのですか?」
「そのうちわかるかもな」
 今の牧村の問いには答えなかった。
「わからぬかも知れぬ。それ以前に君には関係ないことかも知れんぞ」
「俺には関係ない」
「おそらく関係はない」
 これまた実に突き放した言葉だった。
「だから気にしなくてもいいぞ」
「そうですか。それじゃあ俺は」
「どうするのじゃ?」
「ちょっと本を借りに来ました」
 彼は答えた。
「ここに江戸時代の仙台の民族伝承に関する本があったと記憶していますので」
「ああ、それか」
 教授にも思い当たりのある話のようだった。彼の言葉に頷いてみせていた。
「あの本じゃな」
「何処にありますか」
「確か奥から二番目の右側の書斎の上から二列目の左端じゃ」
「そこですね」
「うむ、そこにある」
 確かな言葉での返答だった。

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第一話 うつけ生まれるその五

「またな」
「またとは」
「しかしその前に織田家は」
「むしろあれは織田家を恐ろしい場所に高めるぞ」
 信秀は今度は不敵な笑みを浮かべて述べた。
 そうしてだ。信秀は二人もこうも言った。
「その方等勘十郎の方がいいと思うておるな」
「いえ、それは」
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「その様なことは」
「よい。わかっておる」
 二人は本音を必死に隠そうとした。しかしそれは既に見抜かれていた。だが信秀は今はそれを咎めずにだ。また言ってきたのだった。
「それはな」
「・・・・・・・・・」
 二人は沈黙してしまった。だがここで信秀はその吉法師以外の子のことも話した。
「あれは出来物だが主の器ではないのだ」
「主の器ではない」
「左様ですか」
「宰相の器だ」
 それだというのである。
「主ではない」
「そうなのですか」
「勘十郎様は」
「そうだ、しかし吉法師は主の器」
 また吉法師について話した。
「それもやがてわかる」
「だといいのですが」
「それも」
「やがてあれの周りには人が集まって来る」ヴィトン コピー 激安
 信秀は笑っていた。不敵なまでの笑みを浮かべている。
「そして天下を制するであろう。少なくとも甲斐の武田や越後の長尾を超えるな」
「あの二人をですか」
「虎に龍を」
 二人も武田晴信、そして先の長尾影虎のことはよく聞いていた。今急激に勢力を伸ばし戦に勝ち続けている。その者達を超えると言われたのだ。
 しかもそれがあのうつけと言われる吉法師だ。驚くのも無理はなかった。
「超えますか」
「まことに」
「駿河の今川や美濃の斉藤なぞものともせぬだろう」
 今信秀が実際に干戈を交えている相手だ。どちらも厄介な相手だ。
「必ずそうなる」
「ではそれを見よと」
「我等に」
「そうだ、見る」
 信秀はまた言った。
「それは言っておこう」
「ではその言葉しかと受けました」
「それでは」
 柴田も林もだった。遂に主の言葉に頷いた。
 そうしてだった。また言った。
「是非見させてもらいます」
「吉法師様を」
「うむ、癇の強い者だがそれも見るのだ」
 既に信長の癇の強さも知られていた。気の短さにおいてもよく知られるようになっていたのである。その極端な性格もである。
「わかったな」
「では我等は今より」
「吉法師様の家老となりましょう」
 こうして二人は吉法師の家老となったのだった。
 だが吉法師の格好も行いも全く変わらない。相変わらず無作法極まりない仕草で町を練り歩き乱暴に馬を乗り水練を行う。その中でだ。
 まずは柴田が気付いたのだった。それを老練な、深い皺の顔の男に言うのだった。佐久間信盛である。
「吉法師様だが」
「うむ、どうなのだ?」
「どの様な馬でも乗られ水練も見事だ」 
 まずはこの二つを話すのだった。
「どちらも速くしかも上手い」
「乱暴であってもか」
「確かに戦場ではそうそう穏やかにやっていられぬ」
 柴田はこれまで多くの戦いを経てきた。それでそうしたことはすぐにわかるようになっていたのだ。

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15:呉/明命書房刊【氣の使い方:応用の巻】

36/明命書房刊【氣の使い方:応用の巻】

 思春にぼこぼこにされてから幾日。その日は綺麗な青空が…………無かったりした。本日雨天、激しいスコールに見舞われるでしょう。
 ざんざんと降り注ぐ雨の雫を、宛がわれた自室の机に座りつつ、読書の合間に眺める。
 気の所為か、鍛錬の日に限ってよくないことが起こっている気がするのだが───き、気の所為、だよな?

「……ん、今日の読書終了」

 と言って、読んでいた本をパタムと閉じる。……まあその、胴着姿
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 机に置いた本は、冥琳に「これを読め」と勧められた絵本だ。
 べつに今となっては漢文が読めないわけでもないのだが、細かな文字……ええと、なんと喩えればいいんだ?
 ほら、あるだろ? 日本にも、同じ国の文字なのに達筆で読めなかったり、似た字なのに意味が違ってたりする文字。
 そういうのを、他でもないこの大地でプラダ キャンバス学ぶため、時々書庫の本を借りては読んでいる。
 見てはいけない、と言われたものもあるので、そちらの書物には決して手を触れないでだが。

「………っ!《うずうずっ》」

 で、ちらりと寝床の上へと視線をずらしてみれば、そこを椅子代わりに座っていた明命が「終わりましたかっ!?」とばかりに顔を輝かせていた。
 ……そう、今日は明命と少しだけ本気バトルの予定だったのだ。だから胴着姿。
 手加減されたままでのイメージトレーニングでは、少々物足りなくなってきてしまったのだ。だから、一度叩き潰して欲しい。この間、思春に叩き潰してもらったおかげで思春のイメージは再び強いソレに戻ってくれたんだが、人の脳っていうのはこれで案外都合がいいものだ。
 しばらくして慣れてしまうと、勝手に自分の有利に状況を運んでしまう。そうなってしまっては、それはもうトレーニングなんかじゃなく自分が強いだけの都合のいい妄想だ。
 それが嫌だったから、思春と立会い……ボコボコにされたわけだが。意外と本気でいったのに、全然だったな……さすがに乱世を駆け抜けただけはある。
 今度は、いろいろと小細工も駆使してやってみよう。氣を使うことが小細工って呼べるのかはべつとして。

「えっと……見ての通りの雨なんだけど……」
「あぅ……先ほどまであんなに晴れていましたのに……」

 言葉だけ聞くと、丁寧でお嬢様チックにも聞こえる明命の言葉はしかし、残念そうに外を仰ぐ姿と合わせると、外で遊べなくなった子供の寂しそうな声にしか聞こえなかった。
 ……あんなことがあってから数日。そう、数日だ。
 俺と明命はお互い、顔を真っ赤にさせながらも謝り、譲り合い、なんとかこうして些細なことで笑い合える二人に戻っていた。
 なにせ真名を呼んだあの日から、目を見て真名を呼ぶたびに真っ赤になって、時には気絶してしまうこともあったほど。
 ここまで回復するのには、やっぱりそのー……時間が必要だったのだ。
 けれどつい一昨日の夜、部屋のドアをノックした明命は、決意の面持ちで言ってきたのだ。

  慣れるまで傍に居ますっ、いえっ、居させてくださいですっ!

 ……と。
 それからは大変だ。
 夜を越え、朝から晩までを飽きることなく、一日中……そう、親父達の手伝いをする中でも片時も離れず(厠とかはべつだが)、ず~っと俺の傍に居続けた。
 最初は流石にそれはと断ろうとしたのだが、泣きそうな顔で言われた日には………………ああ、本当に俺って弱い。
 女の涙を蹴落とせる男になりたいって言うんじゃないけど、もう少し自分の意見を貫ける男女関係を作りたいなぁとか…………うん無理だね。なにせそもそもの相手のほぼが、三国にその人在りと謳われた猛者ばかりなのだから。

「あの。一刀様? 今日はどうしましょう……部屋の中でするわけにはいきませんし……」

 いつもなら元気よく“ぽんっ”と叩き合わされる手も、今はちょこんと胸の前で合わせられているだけだ。
 見て明らかとはよく言ったものだ、今の明命は物凄く元気が無い。

「こういう時は素直に氣の鍛錬だな。出来ないことを思って時間を潰すのはもったいない」
「あぅ……そうですか。お手合わせ、したかったです……」

 そう言って、本当にしょんぼりとするから困る。
 そんな顔をされると弱くて、つい俺は椅子から立ち上がると明命の傍に立ち、その頭を撫でてやる。

「……あぅ」

 昨日の夜から、気づけばこうして撫でている自分が居る。
 何故かといえば、こうすると明命は気持ちよさそうにして、気絶することも落ち込むこともやめるから。
 猫の喉や背中を掻いたり撫でたりするのと同じ要領なのかもしれない。目を細め、ハスー……と小さく吐息して、気の所為か自分の周囲に小さな花を咲かせていた。……幻覚?

「………」

 けど、いろいろと、まずい。
 自然体で接してきたつもりでも、情っていうのはどうしようもなく移るものであり。たとえばもし、明命に好きですとか言われたら……俺には断れる自信が……───ない、なんて言えない。
 弱気になるな、北郷一刀。誓ったはずだろ? 俺自身がどれだけなにを言われようと、俺は……俺は魏に生き、魏に死ぬのだ。

「……?」
「ん……あ、や……はは、なんでもないなんでもない」

 苦笑が漏れる。
 俺からの妙な雰囲気を受け取ったからか、撫でられていた明命がきょとんとした顔で俺を見上げた。
 ……揺らぐな。それは、最初に心に決めたことだ。
 華琳がいいと言っても、俺がそれを曲げるわけにはいかない。
 情はある。あるけど、それは恋愛感情までには届いていないんだ。
 だから抑えられる。抑えられてるうちに…………俺は、冥琳が言うように、そろそろ呉を離れるべきなのかもしれない。
 ここは本当に居心地がいいから───ふとした瞬間に、自分が呉の人間だと思えてしまうくらいに暖かいから。
 町人も兵も、そして将も……みんなみんな、暖かすぎるから。

「……な、明命。明命からなにか、奥義的なもの、教えてもらっていいか?」
「奥義的……ですか?」
「ああ。たとえばこうすると足が速くなる~とか、こうすると気配が消せる~とか」
「はぁ……そういったことは私よりも思春殿のほうが得意なのですけど……はいっ、誠心誠意、教えさせていただきますっ」

 今度は元気に、胸の前でぱちんっと手が合わせられた。
 そうして始まるのは、気配の消し方や音を消して走る歩法講座。
 それは、人の中にある個人個人の氣を、周囲に溶け込ませることで可能になる、という。
 どういう意味なんだろう、と首を傾げていると、明命はにこりと笑んで実践してみてくれた。

「えと、まずは……」

 明命はきゅっと俺の左手を掴むと、「意識を集中してみてください」と言う。
 言われるままにしてみると、自分の中に流れる氣の他に、自分以外のなにか……掴まれている左手に自分の氣ではないものを感じられた。
 それは……今にしてみれば懐かしい、凪に氣の誘導をしてもらった感覚と似ている。
 ……そっか、じゃあこれが……この暖かさが、明命の───

「この感覚を覚えておいてくださいね。ずっとずっと、意識してみていてください。───それではっ!」

 ヒュトッ───

「……え?」

 小さな物音。喩えるなら、消しゴムが絨毯に落ちた時の音にも似た音が、床に軽く響いた……瞬間には、目の前に居るはずの明命を、どうしてか一瞬見失った。
 目の前に、今も目の前に……居る、居るのに……え?

「どうでしたでしょうかっ」

 “私、お役に立てましたかっ!?”といった風情でにっこにこの明命。
 ……凄い。目の前に居るのに見失うなんて、そんな……

「すごい……すごい、すごいなっ! ど、どうやったんだ今の! 目の前に居るのに見失ったような気分で───!」

 そんな“神秘”とも言えるような“業”を目の前で見せられた俺は、もうオモチャに喜ぶ子供のようにきゃいきゃいと明命に説明を求め───つつ、どうやってやったのかを考えてみていた。

「はいっ。まずですね、これは相手が多少は気配察知が出来ることが前提なのですが───」

 そんな俺を前に、明命は気を良くしたように説明をしてくれる。
 ───明命の話では、こういうことらしい。

 1、やってみせるには、相手に多少の気配察知能力が必要
 2、相手が自分の姿ではなく気配に集中していること
 3、それを利用して、氣を散らして動揺を誘う
 4、気配ばかりを頼りにしている相手は突然消えた気配に驚く
 5、ただし気を消すために丹田にある気までも散らせる所為で、
   次ぐ動作に気を織り交ぜることが出来ない
 6、散らさずに消してみせる場合は、
   逆に体に気が充実していなければいけない
 7、体中に充満する気を景色へと溶け込ませる
 8、ただし気が充実しているため、
   少しでも攻撃の意識を見せると気取られる

 …………。
 いろいろ大変なんだ、隠密って。
 一応、想像していた“氣を最小限に保って溶け込む”といった方法も無いわけじゃないらしいけど、それは“己を殺せる者”にしか向いていないらしいです。
 |我《が》を殺して欲らしき欲を出さず、気配どころか意識や己が五体全てを景色に溶け込ませる。
 それらを出来る者が……思春らしい。
 思わず「え? 我を殺して欲らしき欲を出さず?」と突っ込みたくなるが、考えてみれば思春の口から聞ける言葉は“国のため”ばかり。
 蓮華のためにってところもあるんだろうけど、というかそれが大半だって思ってたんだけど、それは欲というよりはもう自然体のレベルにまで達しているんだろう。
 だから“欲”としては現れず、鈴の音だけが景色に溶け込んだ彼女の居場所を教えてくれる。

(すごいな、本当に達人の域じゃないか)

 達人以上な気もするけど。気配殺しに関しては仙人級なんじゃないだろうか。とにかくすごい。
 そんなことを自分のことのように笑顔で話してくれる明命も、なんというかこう、やっぱりいい子で……

「よ、よし。ちょっとやってみてもいいか? えーと……」
「《きゅむ》ひゃあうっ!?」

 まず、明命の手を握って俺の氣の在り方を感じてもらう。
 握った手に氣を集中させて、これが俺の氣だよ、って。……なんて思ったんだが、そもそも明命は俺の気配くらい簡単に気取れるだろうし、意味なかったかな、と途中で気づく。
 そうして手を離した途端、「あ……」と寂しげな顔で見上げられたりしたけど、今は集中。
 ええと、相手が俺に集中しているのを利用して、氣を散らして動揺を誘う……だよな。
 散らすっていうのがよくイメージできないんだけど……要するに一気に消耗してみせろってことか?
 いや待て、まずは氣を充実させるほうでやってみよう。

(集中、集中……集中……!)

 丹田で氣を作り、全身に流すイメージ。
 祭さんの強引な鍛錬によって増加してくれた“氣の絶対量”がゆっくりと満たされていく。
 あとは自分の気配を周囲の気配に溶け込ませるんだけど………………あれ? そういえばどうやって?

「………」
「………」

 よ、よし、じゃあ空気。俺は空気だ。空気になろう。
 空気、空気~…………目立たなくて出番なくて、いっそ居なくてもいいような存在をイメージして……あ、あれ? どうして“一昔前の俺は空気だった”なんて意識が溢れてくるのかな。
 一昔前っていつ? 一昔前って誰?

「はうわっ!? す、すごいです一刀様っ、実践してみせただけで気配を殺せるなんてっ! ……あぅあぁっ!? ななななぜ泣いておられるんですかっ!?」
「い、いや……なんでもない……」

 ふふ……悲しいな……。悲しい夢を見たよ……。
 夢というか幻覚だな、うん。気にしないようにしよう。

「ごめん、このやり方だと俺の心が保ちそうにないから……。え、えっと……空気になるのは勘弁を……」
「……あの。でしたらその感覚だけを別の何かに向けてみてはどうでしょう。一度出来たのなら、要領は受け取れたと思いますし」
「う……」

 掴めたコツとか感覚でさえ思い出したくないんだけど……せっかく出来たことを否定するのももったいない。
 えーと……空気、よりも広い範囲。たとえばこの部屋全体が自分であるかのように……そう、俺は相手を囲う建物。部屋。日々の象徴。当然としてそこにあるものとして、自分を“無”としてではなくあえて“有”に───

「……? あぅぁっ……!?」

 相手……明命を包み、そこにあるのが当然のものとして……イメージ、イメージ、イメー…………あれ?

「……! ……!《ぷしゅぅうう……!!》」

 なにやら明命が顔を真っ赤にして、かたかたと震えて目を潤ませて───ってストップストップ! なにか危険な気がするから、氣を充実させる方向はストップ!

「は……はふ……!」
「えと……大丈夫か? 明命」
「は、はい……なんだか解りませんけど、急に、その、一刀様に抱き締められているような気分になりまして……あぅあっ! なななんでもないです忘れてくださいっ!」
「………」

 一応成功してたってことでいいんだろうか……って待て。それってつまり、今のやり方でやると相手が誰であれ、俺が抱き締めているような感覚に襲われるってことか?
 もちろん気配を探ろうとしていることが前提だろうけど…………男がやられたらトラウマになりそうだな、それ。
 いや、考えるのは一旦中断。顔を真っ赤にさせている明命を落ち着かせるためにも、むしろ充満じゃなく消す方向で試してみよう。

「明命。氣を散らすって……どうやればいいんだ? やっぱりこう、一気に使い切る感覚か?」
「あ……いえっ。たしかにそれが一番気配を殺せますけど、多少は残しておかなければ次の行動が起こしにくいです。ですから氣は微弱に、息を潜め、音を無くすことに集中するんですっ」
「音を……?」

 言われるままに氣を小さく……って、丹田に溜まってるからこれを小さくなんて出来そうにないぞ?
 雪を固めるみたいに凝縮できるわけでもないだろうし……いや、待てよ? 凝縮?

「………」

 氣の扱いがてんで出来なかった時、一応集中させてみれば集まった、指先に小さく灯る程度だった氣。
 あのイメージを今、自分の中にある全ての氣を集中させるために使って───…………一気に散らす!!

「《ぱぁんっ!!》───《どしゃあっ》」
「はうわぁっ!? か、一刀様!? 一刀様ーーーーっ!!」

 ……散らした途端、倒れた。
 うん……ソウダヨネー、俺程度の氣を一気に散らしたら、動けなくもなるよねー……。
 でも圧縮することは本当に出来ると解ると、いろいろと応用が出来そうで……わくわくしたと同時にぐったりした。
 いい、しばらく動けそうにないから、少しだけ日々を振り返ってみようか……。



-_-/最近の出来事

 現在より二日ほど前のとある日。蜀から華佗がやってきた~と聞いたのは、その日の夕刻だった。
 日々、人々を病魔から救うために大陸を旅する彼は、あまり一箇所に留まることをせず、放浪にも似た旅を続けているそうだ。
 そんな彼と顔合わせをするのは、一年も前のあの日、華琳の紹介で診てもらって以来となる。
 相変わらずの格好と赤い髪に、どこかで聞いたような特徴のある声が目と耳に懐かしい。
 思えばこの世界に降り立っての日々、男との付き合いといえば兵士や民との間だけ。
 こうして腰を落ち着けて話す相手なんて、個人としては初めてじゃないだろうかと少し涙した。
 そんなわけで現在は宛がわれた自室にて、一応の検診を受けているわけだが。また消えたりしないかと不安が残ってたっていうのが理由だ。

「もう体にかかる違和感はないのか?」
「一応そこは解決済みってことで。すこぶる健康だよ」
「そうか。それはよかった」

 顔を合わせるなり目をギンッと光らせ、俺というよりは俺の内側を診た華佗は、ニカリと笑って安堵の息を吐いた。
 顔合わせの途端にすることじゃないだろう、なんて言葉も出るはずもなく。むしろ、心配してくれてありがとうって言葉を返した。

「それで、急にどうしたんだ? まさかあの日からずっと、今でも医療の旅を続けているとか───」
「我が身、我が鍼に誓い、病魔と戦う者は誰一人見捨ててはおけない。旅を続けるのは俺の使命であり、病魔の排除は俺の役目。生きようとし、死にたくないと思う者を俺は戦以外で救いたい。医師の仕事は戦ではなく治療だからな」

 “だから旅を続けている”と続ける華佗に、素直に感心した。
 以前から思ってたけど、本当に真っ直ぐな人だ。

「急にどうしたんだ、と訊かれれば……諸葛亮に“周瑜が来て欲しいと言っていた”と言われたからなんだが───」
「朱里に?」

 そういえば少し前、蜀へ定期報告と学校についてをまとめるために戻ったんだっけ。
 「書簡に纏めてそれを送ったらどうだ?」って言ってはみたけど、「その場に居ないと通じないこともありますから」と、律儀に蜀へと戻っていったのだ。

「へえ……けど冥琳が華佗に用事か。どんな用だったんだ?」
「…………いや。すまないがそれは言えない。秘密にしてくれと言われているんだ」
「秘密に……そ、そっか」

 いろいろあるのかもしれない。女性って大変だって聞くもんな。深く考えないようにしよう、うん。それに最近、咳をする冥琳をよく見るようになった。以前気になった時から風邪が続いているなら、診てもらわないと危険かもしれない。
 などと、少し慌てた風情で無駄にうんうんと頷いている俺を、華佗が緑色の眼で鋭く射抜くように見つめる。

「ん……えと、華佗? どうかし───はっ!? もしかして悪いものでも見えたのか!? 困るぞそれっ! 俺はもう消えるわけには───」
「ああいや、違うんだ。ただ…………北郷、氣の鍛錬をしているのか? 以前とは明らかに体の作りも気脈の大きさも違う」
「へ……? あ、ああ、なんだそっか、そのことか……」 

 以前の続きのように始まった診察なのだから、急に焦られれば自分が消えるんじゃあ、と思うのも仕方ない。
 けど逆に安堵に繋がった言葉を聞いて、俺は一年前から始めた鍛錬のこと、ここ最近になって始めた氣のことを話した。

「そうか。同じく世の全てに平安を願う者として、俺も負けていられないな。しかし…………そうか。氣を……」
「?」

 考え込む仕草をして、華佗はぶつぶつとなにかを喋っているんだが……なんだ? “同じ氣が”とか“淀みが”とか、よく解らない言葉がぽつぽつと聞こえてくるけど。
 ……と、首を傾げていると、急に俯かせていた顔を上げて口を開く。

「北郷。近日中に手伝ってほしいことが出来るかもしれない。それまでに、氣の絶対量を出来る限り増やしておいてくれないか」
「ああ───ってなんで!? つい返事しちゃったけど、どうして急に俺の氣の絶対量の話になるんだ!?」
「必要なことなんだ、頼む。それから───ああ、恐らくは甘寧か周泰あたりがいい。気配の殺し方、氣を自分以外のなにかに溶け込ませる方法を訊いて、身に付けておいてほしい」
「………」

 要領を得ないというか……そりゃあ、教えてくれるのなら喜んで学ぶけど。教えてくれるだろうか。特に思春。
 ……勘繰りを混ぜるとしたら、華佗が必要だって言うことは、誰かの病を治すことにも繋がるって考えられる。
 特に……呼んだっていうのが冥琳なら、それも頷ける気がした。

「解った、一応訊いてみるよ」
「ああ、頼む。だが、間違っても高めすぎないでくれ。気配を殺しきれないほどに高めすぎたら意味がない」
「…………随分とまた難しい注文だな」

 そう言いながらも、そうすることを前提で鍛える気満々な俺が居るわけだけど。
 少し前から冥琳がしている咳は、どうにも頭に残ってて気になっていた。もしそれを治すために必要だっていうなら、それに全力を注がないわけにはいかない。
 ……いろいろ世話になっているし、なにより病死なんてことになったら絶対に後悔する。

「それじゃあすまないが、俺は町のほうに行ってくる。ぎっくり腰になった老人が居ると聞いたんだ」
「……ああ、あのじいちゃんか。落ち着いたふうで、結構元気な人だからな」

 雪蓮が城を抜け出しては会いにいく老人だ。
 雪蓮のことを雪蓮ちゃんと呼び、随分と仲良しの老夫婦。
 ぎっくり腰って……大丈夫なんだろうか。そんなことを思っているうちに華佗は軽く手を上げ、部屋から出て行った。
 それをボウっと見送りつつ───少しの時間が経過したのち、“ぱぁんっ!”と頬を叩いて喝を入れる。

「よしっ! 絶対量の拡張、もうちょっと頑張ってみるかっ!」

 痛みが怖くてほんのちょっとずつしか拡張させていない氣の量を、ジリジリと増やしていく。すると膨張した氣の膜が気脈を押し、全身が膨張するような錯覚とともに痛みが体を襲う。
 今度はそれを我慢出来る程度の痛みに抑え、それが常になり、やがては慣れるように耐えていく。
 
「《ギシリ……》お、おおうっ……! 歩くだけでも結構辛いかも……!」

 体をボンドで固められたボンド人間のようだ。足が突っ張ってて、上手く曲げられないような……ううん、なんと喩えればいいんだ?
 これに慣れる、これを常とするようにってなると、一日二日じゃあ辛いかも…………いやいや、弱音厳禁っ! 孫呉のため、冥琳のため、この国に尽くす北郷一刀として、今はひたすらに頑張ろう!

「痛みを恐れるからこんなふうになるんだ……足が攣った時は曲げる勇気と伸ばす勇気、それが大切。瞬間的な痛みを恐れていては、逆に延々と痛みを味わうだけ───だったら!

 キッと扉を見据え、ギシリギシリとしか動かない体を無理矢理に動かしてゆく。
 そして扉を開けたその先からは、長く続く通路を───一気に駆ける!!

「走るンだッ!! 祭さんスピリッツを忘れるな! 辛い時こそさらなる辛さ! キツい辛さで軽い辛さを乗り越える!」

 ベキビキと筋がヘンな音を立てている気がするが、それも無視だ。
 通路を駆け、中庭を突っ切り、城の端までを駆け、やがて見えてきた石段を登って城壁の上へ!
 今日は鍛錬の日じゃないが、必要だと言われたからにはその高みへ! 急に起こったことに慌てるんじゃなく、準備期間があるんだったら求められるものより一歩先を目指す!

「さらなる痛みにも耐えて、守れるものを増やすことを……今ここで胸に誓う! 覚悟───完了!!」

 そして走る! 広い広い城壁の上を、鍛錬の時に駆けるように全力で!
 胴着じゃなく私服だが、動きづらいわけでもないからこのまま走───あ、明命。

「おーい明命ー!!」
「? ……どなたかはうわぁあああああっ!!?」

 城壁の角をひとつ曲がった先に明命。
 声をかけてみると辺りをきょろりと見渡し……俺を見つけると同時に絶叫。
 瞬時に顔が真っ赤になり、どうしてか視線を彷徨わせるどころか首ごと彷徨わせるようにぶんぶんと視線を…………泳がせるどころか豪泳させている。

「かっ、かかっ、かずっ……一刀様っ!? あぅあっ……あぅーーーーーーっ!!!《ダダァッ!!》」

 しかも次の瞬間には俺に背を向け、走っていってしまう始末。
 ……いったいなにが?と思うより先に、もしかすると仕事中にも係わらず俺の鍛錬に付き合ってくれるんじゃあ……と、暖かな勘違いをした俺は、逃げゆく明命を追いかけるように走った。

(明命……いい子っ!)

 拝啓、曹操様。他国の地で、僕はとてもやさしい子に出会いました。
 仕事中にも係わらず、こんな僕の鍛錬に付き合ってくれるのです。
 え? 顔が赤かったのはどうしてだ、って? きっと猫でも見てとろけていたんだと思います。
 だから走りました。走って走って、走り続けて───やがて夜が訪れる頃には、空腹と疲労と……おまけに眩暈と酸欠とで城壁の上にへたり込み、目を回す俺と明命が居た。


───……。


 そんなことがあっての就寝時刻。
 結局、逸早く回復した明命には逃げられてしまい、俺はといえば気脈拡張にともなう痛みと無理矢理に走ったために痛みとでダウン。逃げる明命を追えず、空腹のまま今まで城壁の上でぐったりしていた。
 こうして部屋に戻ってきたのもつい今しがたであり、もうこのまま寝てしまおうと寝床へと倒れこもうとした……その時だった。

「《ドヴァーーーン!!》一刀様っ!!」
「キャーーーッ!!?」

 急な来訪。勢いよく開け放たれたドアに心底驚いた俺は、女性の悲鳴にも似た声を出し、寝床の前で変なポーズをとっていた。

「え……あ、あれ? 明命?」
「は、はいっ、明命ですっ! せせせ姓は周、名は泰、字は幼平っ! すすすす好きなたべものはぁあああ!!」
「ちょ、待って! 落ち着いて! どうかしたのか明命!」

 目をぐるぐると回しながらあわあわと口早に喋る明命に、さすがにただ事ではないと睡眠モードを解除。
 寝床の傍から離れると、ドアを開いて、そこから先には入ってこようとしない明命の傍へと歩く。

「明命……ほんと、どうしたんだ? なにか大変なことがあったなら言ってくれ。俺で力になれるなら、喜んで協力する」
「…………」

 俺を見上げる明命の顔は、夕刻の時と同じく真っ赤。
 けれど逃げることはせず───というか逃げようとする体を強引にこの場に留めている感じがする。
 いつものように胸の前で手は合わせ、俺の目を見上げては、逸らしそうになる自分を戒めている、というのか……な、なんだ? なにが起こってるんだ?

「か、一刀様っ」
「え? あ、うん。なに?」
「……っ……か、かか、一刀様っ!」
「うん……えと、なに?」
「~~~…………きょきょ今日はいいお天気ですねっ!」
「へあっ!? ……え、えああ……? や、そりゃあ……いい天気ではある……かな? もう夜だけど、雲ひとつなかったし……」
「はぅっ……う、ううー……」
「……?」

 いや……本当になんだ?
 合わせた手をこねこねとして、俯きそうになる視線を無理矢理俺の目へと向け、逸らすことなく逃げることなくこうして向き合って……いったい何がしたいのか。

「───……~~~……、……すー……はー…………っ、かか一刀様っ!」
「……うん。どうしたんだ? 明命」

 今度こそ話してくれるだろうと、たっぷりと待ってから笑顔で迎える。……と、なにやら逆効果だったらしく、明命は目を潤ませつつあわあわと慌て始めた。
 ……思わず抱き締めて頭を撫でてやりたくなるが、やったらやったでマリア様以外の“見ている誰か”の手によって、俺の首と胴体がオサラバしそうだからやらないでおく。

「う、うぅ……うー……一刀、様……《ぶんぶんっ!》───一刀様っ!」
「おおっ!?」

 しかし今度こそはと、頭を振ってキッと俺を見上げた明命!
 その口から、ついに衝撃の事実が明かされようとしていた───!

「慣れるまで傍に居ますっ、いえっ、居させてくださいですっ!」

 ……うん、明かされた。明かされたんだけど……いや、明かされたらしいんだが……明かされたんだよな?
 あのー……明命さん? もーちょっと噛み砕いて仰ってくださると……私、北郷めにも理解できると思うのですが……。
 それともこれはとても解りやすいことで、ただ俺が解らないだけ……だとでも!? だったら大変だ、これだけ真っ直ぐに打ち明けてくるのだ、なにか大切なことに違いない……!

「───解った。明命がとっても真剣だっていうこと、きちんと受け止める」
「《かぁああ……!》ふわっ……かか、一刀様……」

 とりあえずは一緒に居るとなにかに慣れるそうだ。一緒に居るだけでいいなら、いくらでも付き合おう。
 そうすれば、明命とのキスのことだって少しは───…………

「…………アレ?」

 キス? ……キスって……って思い出したぁあああああああああああああっ!!!

「な、あぐっ……!!」
「……? か、一刀様……?」

 解った! 理解できた! 赤くなる理由も、急に走り出した理由も、目を逸らそうとか逃げ出そうとかしてた理由も、全部っ!!
 慣れっ……慣れね! 必要だねうん! よく解った、本当によく解ったよ! 確かに必要だ! 必要だけどっ……ぐっは……! 慣れるまでずっと!? ずっとこんな、ざわざわしたような逃げたくなる気分と激闘を繰り広げろと……!?
 いやいや待て待て!? キスしたことに慣れるとか、それを了承したこととか、挙句の果てに“真剣だってことをきちんと受け止める”って、まるで告白を受け入れたみたいなぐあああああああっ!!

「一刀様っ!? 頭を抱えて震え出して、どうされましたかっ!?」
「なんでもないよ!? 大丈夫大丈夫!」

 大げさともとれるほどに大きな声で大丈夫宣言。
 でも結構大丈夫とは思ってなかったりもしました、はい。

(…………けど、まあ)

 俺と明命に、慣れる時間が必要なのは確かだ。
 けれどそれは永遠に与えられたものではなく、実に有限。俺はいつか帰るし、明命もそれを知っているからこそ、早く関係を修復したかったに違いない。
 そうなれば俺が言葉を改めて断る理由なんてなく───むしろ賛成する理由しか見つからなくなっていた。

「………」
「《くしゃっ……》ふわ……一刀様……?」

 そうなれば自然と心も穏やかになって───気づけば、自分との時間を大切に思ってくれる目の前の彼女の頭を撫でていた。
 さらさらの黒髪を指で梳かすように、やさしく……やさしく。
 それから部屋の中に招いて、夜から朝まで他愛ない話の連続。
 夜更かしをしていろいろなことを話し、朝が来る頃には二人ともぐったりしていて、けれどそんなことを気にすることなく、むしろハイになったかのように語り明かした。
 猫のことや鍛錬のことやモフモフのことや猫のことや肉球のことや猫のことや……ああ、つまりは猫のことばかり。
 結局祭さんが乱入してきて、さっさと起きんかーと怒られるまでそうしていたわけだけど……うん、寝てないんだよね。
 だから乱入してきた祭さんも少し呆れた顔してた。うん、してた。

「それでは今日も奉仕活動へ……」
「……うにゅうにゅ……」

 しかし国に返すという言葉を偽りにしないためにも、どれだけ眠かろうと仕事は仕事、奉仕は奉仕。
 仕事だから親父たちを手伝うってわけじゃないにしろ、やることはやらなきゃこの国に居る意味がない。
 だから俺は明命と二人、ゾンビのごとくン゛ア゛ア゛ア゛ア゛……と奇妙な声を出しつつ、今日も町へと繰り出した。
 ───長い長い、明命との一日の始まりであった。



-_-/一刀

 そんなこんなで一日中ずっと明命と一緒に居た俺は、こうして昨日も夜を共にしたわけだけど……や、いやらしい意味は一切なくだぞ?
 そのままの延長でこうして早朝から鍛錬の話やらなにやらをしている。明命の仕事については、祭さんや蓮華が今のままでは仕事にならないからと送り出したと聞いている。代わりに誰かが担ってくれているんだろう。
 しかし、一日かけて多少は慣れた俺達だけど……氣の扱いは一日にしてならず。
 ようやく氣が落ち着いてくる頃には、俺は長い長い息を吐きながら苦笑を漏らしていた。

「散らす方向は向いてないみたいだ。や、まいったまいった」
「気を付けてください一刀様。氣の全てを散らしてしまうのは、いくらなんでも無謀ですっ」
「はい……反省してます……」

 まさかいきなり倒れるとは、自分でも予想だにしなかった。当然のことだけど、氣って大切だね。

「でも、面白いな。自分の気配をべつのなにかに溶け込ませるなんて」
「溶け込ませることが“自然”に出来るようになれば、より察知されなくなりますです。でも、本当にすごいです。教えたばかりでやってみせてしまうんですからっ」
「うん、自分でも驚いてる」

 イメージトレーニングばっかりだったからな、俺。
 そういったものが活きてきてるんだろうか……だったら嬉しい。
 強くイメージすることでなにかになれる……不思議なもんだなぁ、氣っていうのは。
 もちろん、なるべきモノのことをよく知っている必要があるんだろうけど───あれ? 華佗が言ってたことってつまり、治療かなにかにこういったものの応用が必要だから……なのか?

「んー…………」

 じゃあ、とイメージを開始。たとえば春蘭。荒々しくて、素直で、時々間が抜けてて、華琳を愛していて、それから、それから…………

「あの、一刀様? どうしましたか? 氣が随分と揺れてます」
「ん、んー…………うう」

 だめだ。そもそも俺、氣を扱えるようになってから春蘭と鍛錬のひとつもしてない。
 相手の氣を感じ取ることも出来なかった俺が、春蘭の氣ってものを解るはずもなく……もしかしたら春蘭の気迫とかを真似できるかもといった考えは、あっさりと潰れてしまった。

「………」
「……? あの?」

 ならば。
 鍛錬に付き合ってくれる明命や祭さん、そして一度多少の力を見せてくれた思春の氣なら、真似ることが出来るだろうか。
 えーーーと…………思春、思春…………と。

(蓮華が好き。国を愛している。俺に厳しい。厳しいけど……実はやさしいところもある)

 思春に関するイメージを纏めてゆく。
 で、おそらく今も傍に居るであろう思春……そんな彼女の、微量にも感じ取れない気配に自分を溶け込ませるように。つまり、無に自分を溶け込ませるように───……

「……………《キリッ》」
「あぅあっ……!? か、一刀様っ!? なんだか急に目が鋭くっ……気配も……」

 欲を殺して、孫呉のため、蓮華のため、我が全てが呉への忠誠にて構築され、それが然としてあるべしと、身体全てに理解させて───自分の気配を無に散らす!

「《ぱぁんっ!》…………《どしゃあっ》」
「一刀様ーーーーっ!!?」

 いや……だから……。散らすのはダメだって……ぐはぁ……。


───……。


 人間、なにかに夢中になると、一度教訓として覚えたものをも忘れてしまう。
 “何かに熱心になったときこそ、冷静な己を胸の中に備えよ”……じいちゃんの言葉だ。
 今、思いきり身を以って味わいました、ごめんなさい。

「うーん……氣の集中、移動はいろいろ出来るようになっても……気配を殺すのは得意になれそうにない」

 床に立ち、明命と対面しながらのぼやき。
 現在はといえば、氣の使い方を別の方向へと向ける練習をしている。
 やっているのは武道的なものだ。氣を込めた拳と普通の拳とでは、どれほど威力が違うのか、攻撃を受けきるにはどうすればいいか、どう対処すればいいのかなど、そういったものを学んでいる。
 こういったことは凪のほうが得意そうだけど、残念ながらここに凪は居ない。

「こういうのって……|化勁《かけい》みたいなものか?」

 敵の攻撃がどこに当たるかを予め予測。その部分に氣を集中させ、体ではなく氣で受け止める。受け止めた瞬間に氣を全身に広げ、衝撃を一点ではなく全体に逃がすことでダメージを減らす……と、言葉だけ聞けば奥義ともとれそうな技法。
 たしか中国拳法にそういった受け流しの技法があったような気がするが。

「それともまた違いますです。氣を使った逸らしかたは、たしかに受けの面ではとても有効なのですけど……氣を一点に集中させる分、他の部位に氣が回せず、集中させる場所を間違えると……」
「………いい、言わなくても想像がついた」

 この世界の人たち相手では、下手したら胴体がブチーン、ってことに……怖っ!!
 でも……そっか。氣にもいろいろあるんだな。

「ちょっと試してみたいんだけど……明命、手を広げて待ってるから、ここに拳をこう……打ってもらっていいか?」
「そんなっ、一刀様を殴るなんてっ」
「いや殴るんじゃなくて! こ、ここにこう……な? ぱちんって。氣を集中させておくから、衝撃を散らせるかどうか試してみたい」
「はー………一刀様は強くなることに余念が無さそうです」
「なんでもやってみたいって言ってる子供みたいなもんだよ。氣の扱いかたが少し解ってきて……はは、今ちょっと楽しいんだ」

 俺の子供みたいな理由を聞いて、明命は少しだけぽかんとするけど……すぐに笑顔になると、はいっと言ってくれる。

「ではいかせていただきますっ」
「よしこいっ!」

 構えた右手に氣を集中! むんっと笑顔で構えた明命を見て、振るわれる拳の速度を予測、当たった瞬間に……氣を散ら───じゃなくて逃がす!! 散らしたらまた倒れ《ばちーーーん!!》

「いっだぁあーーーーーーーっ!!」
「一刀様ーーーーっ!!?」

 考え事に意識が向かったために集中が途切れ、丁度そこに明命の拳がばちーんと!
 い、痛っ! これ痛っ! 少女の拳じゃないよこれ! 世界だって狙えそう!! 痺れっ……手が、じんじんと痺れてっ……!

「あぅあっ……だ、大丈夫ですか一刀様っ! すいませんですっ、私───」
「ち、違う違う、謝らないでくれ明命! 俺が考え事なんかした所為だからっ!」

 じんじんと痛む手を振って、少しだけ痛みを紛らわせる。
 それからもう一度、と手を構えて、萎縮してしまった明命に行動を促す。

「あぅ……」
「大丈夫、明命は悪くないから。それに鍛錬の中で相手を気遣ってばかりいたら、身に着かないだろ? ほら、もう一度。頼むよ、明命」
「…………は、はいっ、いかせていただきますっ」

 そうして再び、むんっと構える明命。
 それを微笑ましく思いながら、構えている手に残る痛みを感じ……もうちょっと間をとったほうがよかったなーと後悔した、とある雨の日のことだった。


───……。


 成功したのは一度きりで、あとの全てが手が腫れる材料。仕方もなしについさっきまで、また氣を溶け込ませる技法を教えてもらっていた。
 手がじんじんと熱を持ち、痒いような痛いような、たとえば思いきりハイタッチをかまして苦しむような感触が、俺の右手を支配している。
 ……現在、早朝を越しての朝。雨もすっかり治まり、曇り空だけど水に濡れた草花の穏やかな香りが、風に乗ってくる。
 ぺこぺこと謝る明命に、「晴れたことだし、あとで鍛錬に付き合ってほしい」とお願いし、了承を得て別れた俺は、森を抜けた小川で手を冷やしていた。
 ずぅっと手を水に突っ込んだまま微動だにしなかったからだろうか、魚が近寄ってきて、俺の人差し指をつんつんと突付いていた。復習として、気配を自然に溶け込ませているのも原因のひとつかもだけど。
 試しに突付き返してみようか───と意識を魚に向けた途端、魚はピュウッと視界から消え失せてしまった。

「…………おおう」

 気配ってすごい。ますますそう思った瞬間だった。
 過去に学ぶことはたくさんあるな……もっともっと頑張らないと。

「本日の課題。気配を殺して魚を素手で捕らえてみましょう」

 大丈夫、素手ではないけどチャ○ランも尻尾で釣っていた。
 即座にたぬきあたりに強奪されてた気もするけど、気にしない気にしない。

「じゃ……っと」

 欲を殺し、気配を溶け込ませ、魚が俺を自然の一部だと思うまで、動くことに意識を向けるのを殺してゆく。
 イメージは樹の根。川の中まで伸びる大木の根をイメージして、水に手を突っ込んだままにする。
 少しの雨でも増水はするものなんだろう、いつもより少し勢いのある川の流れを感じながら、ただひたすらに待ってみる。
 と……ようやく警戒が解けたのか、魚がこちらへ泳いでくる。……そんなことにホッとした途端、またピュウッと泳いでいってしまう。

「や……これ無理じゃないか?」

 ホッと、気を緩めた途端にこれですよ?
 魚を手で掴むとか、それこそ仙人にでもならなきゃ……い、いやいやいやっ、さっきは突付き返す寸前まで行けたんだ、へこたれるな北郷一刀っ!

「これじゃあだめだ……いっそ川を流れる水にでもなった気で───!」

 服をばばっと脱いで、少し湿っている岩の上へとばさりと落とす。
 そうしてトランクス一丁で川へと入ると───……冷たッ!! ってだからそんなことで身を縮みこませているくらいなら集中!

「ふ、ふー、ふー……!!」

 流れが早くなっていることもあって、水の冷たさを感じる速度が上がっているというか。
 こう、氷水に手を突っ込んでいる状態よりも、そこから手を動かしたほうが冷たいって感じるだろ? それを自動でやられている感じ。
 陽光が落ちていない分も水の冷たさに影響して、脱力しようにも逆に緊張してしまう。
 いやー……こんなんじゃだめだ、集中、集中……。流れる水に身を任せるように、いっそ自分も水になるつもりで───

「………」

 ちらりと見ると、護衛のつもりなのか周々と善々が草むらから俺を見ていた。
 座りつつ、くわぁ……と欠伸をしている。
 …………パンダって熊科だっけ? 鮭を取る要領で、魚の獲りかたとか教えてくれないだろうか。

「手で掴むんじゃなく───うん、熊みたいに手で弾いてみるといいかも」

 腰を屈め、すっと集中。
 魚を獲るのではなく、水を叩く……そのつもりで。魚という存在を、水と一緒に見て……魚自体への意識を極力殺していく。
 こうすれば魚への殺気なんてなくなる。自分への意識が無意識になれば、魚だって察知しようがないはずだ。
 だから、水を……水だけを見て……そこになにかが通った瞬間!!

「ぜいやぁっ!!」

 ヒュバッシャアアアッ!!!───振り切った腕と手が水を叩き、草むらへと水の飛沫を飛ばす。
 思い切りやった所為で、手が相当に痛かったが……その甲斐あり! 飛んだ飛沫の中には一尾の魚が《びたぁーーーんっ!!》

「あ」
「………」

 ……飛んだ先に、何故か冥琳。
 物凄い勢いで飛んだ魚は、鞭で何かを叩いたかのような音ととも、冥琳の顔面に……ア、アワワーーーッ!!

「ア、アワワワワ……!」

 心と体が同時に動揺の声を漏らす。
 魚はビチチッと跳ねると冥琳の顔から落下し、冥琳の足下で華麗な酸欠ダンスを踊っている。
 冥琳は溜め息とともにそれを拾い上げると、なにを言うでもなく歩き、川に逃がした。
 ……うん、命を粗末にするの、ヨクナイですよね。

「め、めめ冥琳……? どうしてここに」
「なに。少なくともお前がここに居ることとはなんの関係もない。少々、一人になりたかっただけだ」

 一人に? ……珍しい。
 あまり冥琳が一人で居るところなんてみなかったと思うのに……でも、そっか。そう思うのは俺の勝手だったってだけで、一人になりたい時くらい誰にだってあるか。
 コリ……と頭をひと掻き、岩の上に置いた胴着を身に着けて息を吐く。

「……? 鍛錬でもしていたのか?」
「ああ、うん。本当は早朝から晴れててくれたら、明命と戦ってみるつもりだったんだけどね。生憎の雨だったから、部屋の中で氣のことについて教わってた。この胴着はその名残」
「名残……そうか。ところで北郷? ひとつ訊きたいんだが───何故早朝だというのに、明命がお前の部屋に居たんだ?」
「……エ?」

 いや、それは明命が慣れさせてください~って来て……ねぇ?
 たしかに一緒の部屋でニ晩明かしたけど、やましいことなんて魏の旗にかけて何一つしちゃいない。
 といったことを事細かに身振り手振りを混ぜて説明してみるのだが、冥琳はフッ……と苦笑をひとつ、「冗談だ」の一言で片付けてしまった。
 ア……アー……冗、談……デスカ……。

「間違いがなかったことくらい、思春から聞いている。そもそも、お前自身がそれを許さないだろう。……曹操からの許可を得てもまだ、誰にも手を出さないお前だ。そこは信用しているさ」
「……そりゃどーも」
「ふふっ、なんだ? 不貞腐れでもしたか。天の御遣いとやらも、存外子供っぽいな」
「───」

 う、うーん……なんだ? なんだかこう……あれ?

「……い、いや、不貞腐れたには不貞腐れたかもだけど。……うん、子供っぽいのも認めよう。俺、まだまだ誰も守れてないし……うん」
「…………意外だな。突っかかってくると思ったんだが」

 妙な違和感が先立って、突っかかるような怒りが沸かなかった。
 逆に事実だよなーと受け入れてしまったくらいだ。まあそりゃあ、手を出したとか思われるのは勘違いだろうがウソだろうが心外ではあるのだが……信用しているって言葉を貰えたなら、それで十分だって心が落ち着いてしまった。

「なあ、冥琳」
「北郷。悪いが一人にしてくれないか」

 ……また、違和感。
 冥琳はそれだけ言うと、俺に一瞥も残さないままに歩いていってしまう。

「………」

 漠然とした違和感なんだ。気にするほどのことじゃないと、自分が自分に言い訳しているような気分で、少し上流へと歩いていく冥琳を見送る。
 不思議なのは、そんな違和感を抱いたままなにもしないでいると、嫌な予感がじわじわと胸を支配していくこと。
 何かをしなきゃいけない気がするのに、漠然としすぎていて何をどうすればいいのかが解らない。
 もたもたしているうちに冥琳は川の上流の先……小さな滝の上方へと歩いていってしまい、途端に俺の中に見えなくなったなら仕方ない、といった諦めにも似た感情が───

「《ずしんっ!》ハオッ!?」

 そんな意気地のない自分の肩に、得体の知れない重量……ていうかこの白と黒のコントラストのモフモフ様は……!

「しゅっ……周々っ……!?《メキメキメキメキ……!》ごおおおお……! ぜぜ、善々、も……!? くはっ……!」

 周々だけではなく、善々もだった。
 どうしてか俺の肩に前足を置いたり、俺の脇腹を鼻というか顔全体でドスドスと押したり……ちょ、待っ……! 潰れる、潰れる、潰れる……!! なんか腰あたりからメキメキって嫌な音が……!

「い、行けって……? や、けど追ったところでなにを言えば……く、くはっ……とり、あえず……! 下りてくれ、ない、か……!?」

 急に子供に背中から抱き付かれて、「はっはっはーこいつー」とか言う全国のお父さん、貴方は偉大だ。尊敬の念すら抱けるよ。
 ただ俺の場合は息子でも人間でもなく、重量の違いが倍どころでは済まないために、不公平を覚えそうだが───

「………」

 違和感を覚えたのはたしかなんだ。そこにきて、動物的直感が俺に前進を促しているのなら……行かないわけにはいかない。

「よし、解った! 俺、行く《ゴキンッ!!》ハオッ!?」

 ……と、決意を胸にキッと小さな滝の上を目指そうとした刹那。
 俺の腰から……なにやら、ゴキンッという音ギャアーーーーーーーーーーーー…………




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ネタ曝し

 *明命書房刊
 民明書房刊:【魁!男塾】より。本当は違うけど。
 男塾は本当に、どうでもいいキャラ以外は死なない漫画だった。

 *チャ○ラン
 子猫物語より、チャトラン……雄である。

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